このたび、「奈良・町家の芸術祭 はならぁと2014」のアートディレクターに就任いたしました、山中俊広と申します。

今年で4年目を迎えることになる「はならぁと」、その立ち上げから3年間「はならぁと」のための「地域とアート」の関係性の理念やそのシステムを構築されてきた、野村ヨシノリ氏のアートディレクターの職を引き継ぐことになりまして、その重責に大変身の引き締まる思いです。

「はならぁと」は、私自身のこれまでのキャリアにとても大きな影響を与えてきました。
私は、「はならぁと」2年目の2012年、「こあ」部門のキュレーターとして郡山城下町エリアの旧川本邸の『「記憶」をゆり動かす「いろ」』を企画いたしました。私にとりましてもこの企画は、「地域とアート」の理想的な関係性を真摯に考察し、かつ純粋に現代美術の展覧会企画としても一定のレベル以上のものを作り上げることができたと自負しております。その後、ギャラリストとして大阪市此花区に「the three konohana」 をオープンし、キュレーターとしては「飛鳥アートヴィレッジ」のプログラム・コーディネーターをはじめとしたキャリアをアートの現場で積み重ねていくことができましたが、その原点となっているのは、まぎれもなくこの一昨年の「はならぁと」での実績でした。

「はならぁと」での企画によって、多くの皆様からの評価と信用を得て、私のいまのキャリアの大きな支えになっていることに疑いありません。おそらく私は、最も「はならぁと」に育てられた人間の一人です。そういう思いからも、いつか「はならぁと」に恩返しができればという気持ちを常に持ち続けておりましたが、まさかこんなに早くその機会がやってくるとは思っても見ませんでした。


これまでの「はならぁと」の3年間は、奈良県の個性に合致した「地域とアート」の理想的な関係性を見い出すために、様々なシステムの実践と模索を続けながら今日に至ったように思います。そしてこれからの数年間は、次のステージへとシフトしていかなければなりません。

近年は全国各地において「地域型アートプロジェクト」が多数開催されており、「地域とアート」という言葉やイベントは一般的に周知されたものと思います。しかしながら、国内で開催されている地域型アートプロジェクトの大多数は、潤沢でない予算で実施されているために、地域側とアート側双方とも自ら負担するものが多く、両者が疲労と消耗を重ねている状況にあります。「はならぁと」もその例に漏れません。
いまの「地域型アートプロジェクト」の流れは、徐々に下火となっていくことが予想されます。そんな状況下で、そのシステムにある可能性を信じてこの3年間実施してこられた奈良県内の各地域団体の方々と共に、アート側の立場で加わる私がやるべきことははっきりしています。

まず、「地域」と「アート」の対等な関係を保持できるシステムを構築していくことです。決して他方に対して傲慢にならず、お互いに尊重できる関係であらねばなりません。開催エリアとなる地域側は、参加する作家やキュレーターに対して丁寧に自らの地域の歴史や現状を伝えること。そしてアート側は、アートが特別なもの崇高なものとして押し付けずに、自らの表現を丁寧に翻訳して地域の方々に伝えること。
本来、地域とアートそれぞれの思惑が合致することはありえません。「~してあげている」という意識をお互いが持つことなく、お互いが丁寧にコミュニケーションを取りながら、お互いの考え方や環境を共通認識できる環境作りを大切にしたいと考えております。

そして、私が主に担当いたしますキュレーター制による「こあ」部門のコーディネートにおいて、今年のキュレーター選考では従来の公募による選考を実施いたしません。実行委員会で適任なキュレーターをリストアップし、直接参加を依頼するかたちを取ります。その大きな理由は、「はならぁと」の企画展としての全体の統一感を創出するためにあります。
今回「こあ」に参加していただくキュレーターの方々は、一定の共通項と実績、「はならぁと」としての全体のバランスを考慮した選考をおこないます。それによって、「地域とアート」の関係性を明確に提示するだけではなく、「現代アート/現代美術」の基準においても評価の対象となりうる「こあ」の企画を、一貫性を持って成立させたいと考えております。そのためには、「こあ」の各キュレーターの企画の計画からその準備にもしっかりとサポートしていく所存です。

そして、ここは前任の野村氏と私との大きく違う点でありますが、私はこの土地において「よそもの」であるということも、「はならぁと」にしっかり反映させていきたいと考えております。
奈良県の大きな魅力の一つは、一般的に周知されている奈良時代までの古代のイメージだけではなく、近世以降にも発展を遂げた地域が多数あり、あらゆる時代の面影が随所に残っています。まちの歴史と雰囲気が地域ごとに全く違って形成されていることが、奈良県が全国に誇るアピールポイントの一つだとだと思います。
奈良県の認識やイメージは、地元の方々と地域外の方々とでは明らかに隔たりがあります。そのギャップをよそものの視点で埋めていくことで、双方に奈良への新たな気づきを得てもらうことが、私が関わることの一つの強みであると思っております。

次のステージへと向かう「はならぁと」が、より明確な道筋を作っていくために、私自身できる限りの力を注いていく所存です。加えましてこれらの実現のためには、私たち現場の力の結集のみならず、みなさまの温かいお力添えをくれぐれも頂戴したく存じます。まだまだ若輩者の私ではございますが、今後ともご指導ご鞭撻賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

そして、今年の「はならぁと」にぜひともご期待ください。


「奈良・町家の芸術祭 はならぁと2014」 アートディレクター 山中俊広



[ 山中 俊広 プロフィール ]
1975年大阪生まれ。
大阪府立大学経済学部卒業、
大阪芸術大学大学院芸術文化研究科修士課程修了。
大阪芸術大学博物館学芸員、現代美術ギャラリーなどの勤務を経て2012年よりフリーランスとして活動を開 始。関西を拠点に現代美術に特化した展覧会やイベントの企画、術評論の執筆をおこなう。
2013年に大阪市此花区にギャラリースペース「the three konohana」をオープンし、ギャラリストの立場でも各 種企画をおこなう。2013年より「飛鳥アートヴィレッジ」プログラム・コーディネーター。2014年より大阪芸術 大学芸術計画学科非常勤講師。
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